第3章 回復
「ところで薫は何しに来たんだ?」
「あたしは…
和也をからかいに!」
薫は悪戯な笑顔を見せる。
「…だったら帰れ!」
「嫌だね!
さっきおばさんから後を頼まれたんだから!」
この会話で俺は薫の記憶を思い出した。
「あっ…薫?」
薫は俯いたまま顔を上げなかった。
「和也…お父さんが…お父さんが…」
それは薫の親父さんが亡くなった日の事だ。
俺の桧山家と薫の竹下家は、隣同士で親父同士が幼なじみでもあり家族ぐるみの付き合いをしている。
俺が小学生の頃に薫の親父さんは交通事故で亡くなった。
「ほら和也、おじさんに最後の挨拶して…」
おふくろに促され棺に花を供えた。
その時、俺の親父から、「これからはお前が薫を守ってやれ」と言われた。
そうだ、薫はあの日からしばらく引きこもっていたんだっけ…。
たまに顔を出しても、俯き暗い表情をしていた。
俺は幼いながらに薫の力になりたいと思った。
「…和也?、和也ってば!」
目の前に薫の顔が…。
「ぁん?…わりぃ、ぼうっとしてた」
俺は照れ笑いした。
「まったく、そんなんじゃいつまで経っても記憶戻らねぇぞ」
言葉とは裏腹に薫の顔は心配そうに見えた。
(…何で薫はこんなに言葉遣いが悪くなったんだっけ?)
思い出した記憶の薫はまだ普通の話し方をしていた。