第1章 ロベリア(ダンデ)
私がチャンピオンの座についてから数年、自分でもびっくりすることにまだそこにいた。
すぐに引き摺り降ろされるだろうとハラハラしながら毎日特訓をして研究をして……。
ほぼ毎日後ろから取材してくるマスコミに辟易して、それでもずっとダンデさんに教えてもらったことを守ってきた。
彼は10歳からこれを成して今まで過ごしてきたのかと思うと、その精神力に感服だ。
そしてそれをどこか怖いと微かに思ってしまった。
いつどこで自分の本来の姿が露呈してしまうかわからない気がして、随分長い間気が張っていたのだと思う。
常に誰かに監視されているような、そんなストレスを感じながら過ごしている。
月に何回かしか会えないけれど、そういうときに会って声を掛けてくれるダンデさんに、私はもう救いようのないほどに溺れていた。
「だいじょーぶ、お前なら普通にしてたってこなせるさ!」
そうやって、私が必要な言葉だけを与えてくれる。
養分を与えるように優しく。
私はその甘い言葉を聞きながら、こくこくと頷くしかなかった。
その日は個室のあるレストランで食事をしていたはずなのに、店の外に出るとカメラを持ち構えた人達で溢れていた。
「元チャンピオン、現チャンピオン、お二人はいかなるご関係で?」
「常々色々な噂がありましたが」
「不仲説については」
「ご兄弟で現チャンピオンを取り合っているとか」
濁流のような嫌な言葉をわっと浴びて、私は今までの何かが、ふつりと切れた気がした。
「いい加減にしてください!!」
気付いたらもう手遅れで、それは大きな声で怒鳴ってしまった。
やってしまった、と思うのにはかなり手遅れで、しかもよりにもよってダンデさんの前で。
恥ずかしさと悔しさで、涙が瞳に集まる。
泣きそうになるのを堪えていると、ふわっと目の前が暗くなった。
大きめの上着が私の顔に被さり、視界を遮られる。