第1章 ロベリア(ダンデ)
私が小さな頃から彼はずっとチャンピオンで、ずっと頂点に立っている凄い人だった。
英雄で人気者で、そして幼馴染みにとっては理想の兄で。
いつもその仮面を付けていたように思う。
だからこそ、その座を降りてからの彼を見るのは辛かった……その反面……、すごく安心してしまった。
家族とゆっくり食事をした、というおばさまの言葉を聞いて、何故か泣いてしまったのは私の方だった。
でも、チャンピオンという鎧を外した彼は、誰よりも空っぽだったのは、もしかしたら私が一番よくわかっていたかもしれない。
シュートシティで待ち合わせしてなんとか久々にダンデさんに会うことが出来た。
私が言った駅をおりてすぐ、とは正反対の方向にいたけれど、お供の咆哮のお陰でいつもより少し早く会えた。
ずっと近所のお兄さん、という存在だけだったけれど、二人でご飯を食べるようになって、二人で話すようになって、私だけがどんどんと惹かれているということをその日漸く認めざる終えなかった。
「最近浮かない顔してるな」
「…っ!そ、そうでしたか?」
「ああ。何かあったのか?」
大きなハンバーグが添えてあるカレーを一口食べて、私の顔を覗かれた。
私はずっと、会うたびに顔が熱かった。
胸が苦しくなった。
そしてそれは本当に認めざるおえない、初めての感情だった。
会うのにはいつも緊張する。
それは、尊敬していたからだと思っていた。
「いえ、そういうわけでは…」
頭で言葉を整理してからやっと言えた。
「チャンピオンたるもの、人前でそんな顔をしてはならない」
「うっ…はい…」
「誰か一人でも心配したり悲しいキモチになるだろ?」
「は、はい!」
会うたびにこういう象徴としての振る舞いを一つずつ教えてくれる。
私が惹かれていったのはきっと、こういう姿に憧れてなのだと思う。
尊敬と憧れと、そしてちょっとの甘い感情。