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【短編集】倉庫【雑多】

第4章 クロユリ(五条悟)


ずっと冷たい目で見られ、そうして過ごしてきた。
長い時間だった気がする。
私が家を出るとき、せいせいすると言われたあの笑顔。
とても綺麗だったのにしんどくて、その人たちは悪くないのに、どこか気持ちでもやもやしてしまった。
一緒に暮らしている間もきっと、私はどこかそう思ってしまった。
だから追い出されたとき、当然だと思っていた。
でも、どこか、優しくこうやって引き止めてくれるのを期待してしまったのかもしれない。
今になって、そう思った。

「他人なのに、いきなりすみません…」
ひとしきり泣いて、やっと嗚咽もおさまったところでそう言えた。
ご丁寧に膝枕をしていただき、顔に冷たいタオルをあてていただく。
申し訳なさで消えたい…。
「いいのいいの~!
それに他人だなんて…」
「…?」
「もうこんなに触れあってる仲だもん、他人だなんて思わないよ」
「…っ!」
柔らかい言葉なのに、ぞくっとするような、怖さみたいなのを瞬時に感じて慌てて飛び起きた。
私がそうするのをわかっていたかのように、次の瞬間には壁に追いやられ、そのヒトの腕によって動きを封じられる。
あまりの気迫にさっきの数十倍もの恐怖を感じた。
「…あ、あの…、や、やめて…」
「どこに隠している?」
「え、あ、何がですか…?」
「持っているでしょう?」
今までとは段違いに低い声。
それがますます怖い。
「なにも…何もないです…私の持ち物はこれしかないです…」
お金かそれ以外かわからないけど、このヒトが私に一瞬でも優しくしていた理由がわかってまた泣きそうになる。

なんで、みんな、私に……

そう思いながら身を構えると、それが青くキラキラと光った。
「え…?」
びっくりして目を見開く。
大事に持っていた指輪が、おもちゃとは思えないほどの輝きを放っている。
「あったあった、これさえ渡してくれれば…」
彼はすっと素早く私からそれを遠ざけて、壊すかのような仕草をした。
おもちゃだから、それであっけなく壊れるだろう…。
そう思っていたのに、それはそのまま青くキラキラと輝いている。
「あれ……?」
「…?」
何度試してもそれはびくともしない。
「おっかしいなぁ」
おもちゃなので、そんな頑丈な物ではない。
成人男性なら潰すことくらい簡単にできると思う。
そのヒトは諦めたように笑い、私にそれを返してきた。
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