第6章 明日香の苦悩
俺も言葉が思い付かず、明日香の頭を撫でてやるだけだ。
「…ごめんなさい…ですぅ」
明日香はこの桜から離れたくないらしい。
そう言えば出会った頃、この桜の精になったばかりとか言ってたな。
前任者は昇進して他の桜に移ったって…。
そんな事を考えていたら、また桜が舞いだした。
相変わらず艶やかな着物姿で登場だ。
「出たな、姥桜…
ちょうど良い、あんたに聞きたい事がある」
「…桜の事ですか?」
姥桜・響子は俺が言わんとしている事が分かっているようだ。
「あぁ、昇進したら桜を変えなきゃいけないのか?」
「最近では変える方が多いのですが、別にその様な決まりはありませんわよ
ソメイヨシノは新人が担当するのが習わしですが、昇進してもそのままの方もいらっしいますから…
だから、明日香も昇進試験をお受けなさい」
どうやら響子も明日香が心配で来たようだ。
「…叔母さまぁ、ここにいても良いんですかぁ?」
明日香の表情が少し明るくなった。
「もちろんですよ
ですが、今の貴女達が昇進試験に受かるとは思いません
二人共、これから舞いの修行をします」
逃げようとした麗華は首根っこを掴まれていた。
「響子さん!あ、あたしは大丈夫です!」
じたばたしていた麗華は、響子の一瞥で大人しくなった。
「一八さん、しばらく叔母さまのところで修行してきますぅ」
明日香は涙を拭いて明るく言うと、桜吹雪に三人は消えていった。
残された俺は、桃太の頭を撫でて、ふと叫ぶ。
「桃太忘れてるぞぉ~!」