第9章 煉獄杏寿郎 □呼吸 (死ネタ)
_____そして、あの日は突然やってきた。
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「……大丈夫ですよ。私も戦いに身を置いているんです。覚悟はそれなしに出来ていましたから。」
師範が死んだ。虫の知らせ何てものは何も無く、鎹鴉からその知らせを聞いた。
「無理しないでね?絶対無茶をしちゃ駄目よ?」
私の元へと走って駆けつけてくれた恋柱様もきっと辛いだろう。それでも優しく声をかけてくれるその姿に涙を流すことが出来なかった。
「……フゥーー。…。」
1人になった私は、人気のない林の中で大きく息を吐いた。肺にある酸素をゆっくりと吐き出す。
身体にある全ての酸素を外に捨て去るこの瞬間が好きだった。___「そうだ、全て吐ききれ!!」そういう貴方の傍らで、全ての酸素を吐き出して、空っぽになった身体に、貴方が吸っている酸素を取り入れる。私はそれだけで幸せだったんだ。
「…っ…。お疲れ様でした!!」
炎の意志。そんな言葉が似合う人だった。__「同じ空気を吸っているだけでも嬉しいんだ。」そう言った貴方に、私もですと伝えられていたら、この息苦しさは少しはマシだったのだろうか。
「……師範……っ…。」
____「呼吸をしているのは生きている証なのだ!!」そう言った貴方の証が消えるのを、感じる事も出来なかった。
「…お慕いしておりました…っ。」
それでも、心の底から愛していたから。
「煉獄杏寿郎様…っ…貴方の事を…心からっ…。お慕い申し上げておりましたっ!!…っ……。」
真っ直ぐに前を向く、貴方のように。
「……私が、繋ぎます…っ…。」
私は貴方に比べたら小さな火種かもしれない。
「生きてっ………繋ぎますっ…。」
それでもきっと、貴方の示した道の灯篭くらいにはなれるだろうと、そう思うから。
「お疲れ………様でしたっ!!」
ゆっくり休んで下さい。とそう願いを込めて叫んでから、私はまた大きく息を吐いた。