第1章 交わりと時雨【キラ *】
「雨………。」
夕食の買い出しの道中、ぽつ、ぽつと降り始めた。
それはすぐさま強く、すべての音を拐うように。
「どうしよう………。傘忘れてきちゃったし………。」
(走って帰る、しかないよね………。)
しっかりとコートを着込み。意を決して、靴の音を速めた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
靴の音を響かせ、街を駆け抜けていると。
「ご………ごめんなさいっ」
二人組の男に、ぶつかってしまう。
「お姉さん、ひとり?」
「良かったら、俺らと遊ばない?」
見知らぬ男は野卑な笑みを浮かべ、舐めるように彼女の全身を見分した。
「っ…………。」
嫌悪が胸を塗りつぶす。じりじりと後ずさるけれど。
それが見えていないみたいに、手が伸ばされ―――。
触れることを予感して、ぎゅっと瞳を封じた。
「………この女(ひと)に触らないでくれるかな」
冷たい声音。守るように腕に抱えられる感触。
そっと目をあけると、そこにいたのは。
「き………むぐっ」
すばやく指先をあて、しーっと片目を瞑った。
頷くと、触れた手が離れていく。
「律花ちゃん………走るよ」
「う、うんっ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「はぁ、はぁ………ここまで来れば、大丈夫かな」
「そう………みたい。キラ………さっきはありがとう」
微笑うと、ぎゅっと包み込まれる。
「き、キラ………っ?」
「オレ………キミといると嫌な奴になるみたいだ」
押し殺すような声音にハッとする。
問うように見つめると、彼は曇った笑みを浮かべた。
「キミが知らない男に触れられてるのを見て、
胸が焼けつくみたいに苦しくなったんだ」
背けた頬に朱が集っていて、嬉しさに自然と唇がカーブを描いた。
「ふふ………。焼きもち………焼いてくれたの?」
「わ、笑わないで」
「ご、ごめんなさい。でも………嬉しくて」
「え………?」
「だって………私がキラの特別になれたみたいで」
そう言って、そっと微笑う彼女。
「オレが好きなのはキミだけだよ」
真剣な声音に、彼女の瞳が揺れる。
「理解らせてあげる。
オレがキミのことをどう思っているのか」