第2章 *無意識からはじまる愛情 時透無一郎
「あれ…僕何でこんなところにいるんだっけ…?
」
確か…鬼狩りをし終わって、いつものようにお館様の報告を終えて…
そう、屋敷に戻るはずだったのに。
気がつけば見知らぬ人の家の前。
考えても答えなど出るはずもなくて、とりあえずこの場を去ろうとすると家の扉が開いて若い娘がひょっこりと出てきた。
『…あ、霞柱様…おはようございます、お勤めご苦労様です』
「……君、誰?」
ペコリとお辞儀をする娘に霞柱こと時透無一郎は、これまた見覚えのない娘に怪訝そうな顔を見せる。
『…あ、えっと昨日もお会いしたのですけれども…
改めて自己紹介させて頂きますね。
私はと申します』
少女の名前は。黒髪のセミロングに茶色の瞳を持つ彼女は至って普通の女の子だ。
彼女の話によれば、昨夜も無一郎はこの家の前でぽつりと佇んでいたところ彼女が話しかけ少し雑談をしてから無一郎は帰路についたとのこと。
「…ごめん、覚えてない」
『いいのですよ…こうして霞柱様とまたお話しできて光栄でございます』
にこやかに笑う彼女に、無一郎は心の奥底が擽ったいような感覚に不思議に思い首をかしげるもその正体がなんなのか答えはでなかった。
『…えっと…ここで立ち話もなんですし、私の家でお休みになられますか?』
二言、三言話すと彼女は無一郎に提案した。
彼女に進められるまま無一郎はゆっくりとした足取りで彼女の家に上がり込む。
『霞柱様、こちらの部屋でおくつろぎくださいませ、ただ今茶菓子をご用意いたしますね』
部屋を案内され、座布団の上にちょこんと座る無一郎。
特に彼女の部屋を上がった理由はなく。流れだ。
「えっと…誰だっけ…ああ、そうだだ」
先程の彼女を思い出す。
昨夜も何のためにこの家を訪れたのだろうか…。
考えてもやはり答えは浮かばなかった。
「ねぇ、昨日は何の話したわけ?」
茶菓子を用意してくれた彼女を見る。
お茶を出す手を止め、嬉しそうに無一郎を見つめ返した。
『はい、昨日の霞柱様とは満月の話を致しました。ずっと月を眺めておられたので…気になってしまい畏れ多くも私が話しかけてしまって…』
「ふーん…満月ね…」