第10章 抗えない(運命)1時透無一郎
薄暗くてとても寒い洞穴。
でも、今の私にはそれが丁度良くて…。
鬼になってから何年経ったのか。
人間だった時の記憶は曖昧ながらも、忘れることはなかった。
喉が渇き、お腹は減る。
人間を食べたいという欲求はやはりあって
それでも私の何かが邪魔をする。
そう、私は鬼になってから人間を食べたことはない…。
いや、それだと語弊がある。
生きた人間を食べたことはないのだ。
月夜がひっそりと輝く静かな森。
そこで私は暮らしている。
夜がくるまでひっそりと暮し、
夜になれば死骸を求め、人が暮らす街に出る。
それを数十年ずっと繰り返していた。
「…っ…」
くんくんとにおいを辿れば、
他の鬼に喰われてた肉塊になったもの。
遺体に手を合せ、食す。
人間を食べてることに変わりはない。
ただ、人を殺してまで食べたいとは思わなかった。
そんな、私は図図しいハイエナなのだ。
『っ…っ…』
食べる度に涙が出てくる。
『ごめんなさいっ…』
完食し最後に手を合わせる。
そして、また森へと戻り静かにひっそりと暮らすのだ。
今日もそんな日が続くと思っていた。
辺りが闇に包まれる時間。
朝は森も動物達で賑わっているこの森も、明かりがなくなれば夜行性の動物のみ活動する。
私はお腹を空かせながら、洞穴をでて
においのする方へ向かった。