第43章 祝言をあげよう 時透無一郎
基本、やることは何も変わらない。
任務がない日は夕方近くまで、素振りをし
任務があれば夜には出ていく。家事炊飯は女中の方がしてくださり、空いてる時間は鍛練に勤しんだ。
無一郎さんも空いてる時間があれば、指導してくれる。
それでも、その日に会えば必ず名前を聞かれるし、忘れられていた。
なのにここに残っているのは、自分にとって都合が良いからだ。
記憶には残ってほしくない。
けれども、強くはなりたかった。
そんな私に無一郎さんの存在はとても大きくて、刺激になる。
「…ええっと」
『です。無一郎さんに誘われ、一緒に暮し自分を強くするため鍛練しております。』
何度目かの自己紹介。
最早朝の日課となっていた。
簡単な自己紹介を終えた後、無一郎さんは湯浴みに、私は朝餉の準備をする。
「美味しそうな匂い…これ、君が作ったの?」
『あ、はい簡単な物しか作れないのですけど…』
膳に出来上がった料理を並べると、いつの間に上がったのか無一郎さんが不思議そうな表情でこちらを見下ろしていた。
「いいね…なんだか、懐かしい気持ちがする」
『喜んで頂けて何よりです、あ、無一郎さん髪の毛まだ濡れてます…このままだと風邪引いちゃいます』
新しい湯あがりタオルを持って無一郎さんに断りを入れてから濡れた頭を優しく拭う。
凄くさらさらしてる無一郎さんの髪の毛はとても綺麗で、女の私が羨ましいとさえ思うほど。
絹ように柔らかい髪の毛は、いつまでも触っていたい。
「決めた、僕のお嫁さんになってよ」
『…はい?!』
「祝言はお館様に頼んで…任務も簡単なのにしか受けないで」
私を置いてさらさらと話を進める無一郎さんに頭が追い付かない。
銀子を飛ばした無一郎さんに本気だと気づくと、縋るように無一郎さんの裾を掴む。
『わ、私無一郎さんと一緒になれません』
「なんで?僕の事嫌い?」
『私自身が嫌で…存在もなにかもが…ですから、人の記憶に残りたくないのです』