第43章 祝言をあげよう 時透無一郎
人の記憶に自分は残してはいけないような気がして。
自分の存在をこの世から消したくて。
それでも、自害するのには勇気が1つ足りなかった。
だから、私は人の為に命を遣おうと鬼殺隊に入った。
こんな価値のない命でも。誰かの役に立てたらと。
人並みの幸せを貰っていたのに、
それでも、満足できずに心の奥にぽっかりと握りこぶしくらいの穴が空いている。
強制された道を歩いているわけじゃなく、自分の意思で進んだ道なのに最初から間違えて後戻りも出来ない。
そんな自分が嫌だった。
鬼殺隊に入った私は、言われた通りに鬼を切って、切って切りまくった。
人から感謝される事がほとんどで、
嬉しかった。
こんな自分でも、必要としている人達がいて、嬉しそうに話しかけてくる村人を見れば元気が湧いてくるような。
けれども、それと同時に私のことを早く忘れてほしいとでも思った。
人から感謝されるのは嬉しい。
けれども、記憶には残ってほしくなかった。
そんな矛盾した悩みは幾日たっても私を苦しめた。
今日の任務は、柱と合同任務。
柱がでるという事は鬼もそれなりに強くて、犠牲者は多い事となる。
鎹鴉の伝達によると、数日前に送った鬼殺隊士が立て続けに消息不明とのこと。
計20人がたったの数日でいなくなるのはおかしいということで
今回は霞柱 時透無一郎
と二人の任務が命じられたのだ。
『本日はよろしくお願いいたします、私の名前は「自己紹介なんて時間の無駄だからいいよ…それより、足手まといにならないでね」』
の言葉を遮り、無一郎は顔を見ることなくスタスタと前を歩いた。
その後をも同じ速度で歩くように意識した。
今回の柱が霞柱だと知って、内心ホッとしている。
何故かと聞かれれば、霞柱は物事をすぐに忘れるからだ。
霞柱は寡黙で人に干渉しない。はそんな噂を何度か小耳に挟んでいた。
今日の任務で初めて顔合わせした霞柱の第一印象は噂通り。
霞んだ瞳は、の顔を一瞥することもなく前だけを見て鬼がいる方へ向かってる。
そんな彼に、は少し遅れながらも後ろからついていった。