第33章 *蜂蜜を更に甘く煮詰めて(時透無一郎)
『っ…はぁっ…可笑しいな…ヒートはまだ先のはず…』
身体が火照って、息が乱れる。
ふらふらとした足取りで後5分でつくだろう自分の家がとても遠く感じた。
この世界には第2の性が存在していて、10代半ばで自分がどのタイプなのか伝えられる。
一枚の紙切れには自分がΩだと、大きく書かれていてとてもショックを受けたのを今でも鮮明に覚えていた。
3ヶ月に一度のヒート。
誘惑してるつもりじゃないのに、強い香りをα、βに振り撒く厭らしい存在。特にαには注意が必要で、性交時αに首の後ろを噛られれば番となりその人から離れられないと言う。
そうならない為に、しのぶ様から抑制剤を頂き今まで抑えてきたのに今回のヒートは一味違うようだ。
鬼殺隊、その中で一番位の高い人を柱と言う。
αは優秀な方につくので、柱は全員αだ。
一般隊士は極普通のβが多いという。
そして隠はβとΩ半々に別れていた。
ヒートは1週間続くのだから、1週間そのままお休みを頂き、家でゆっくりと休もう。
そう思ってふらつく足に力をいれ
後2、3歩で玄関の引き戸を開けるという間際に後ろから私を呼ぶ声がした。
熱く火照る頬にたらりと冷や汗が頬を伝う。
一息ついて、後ろを振り返れば時透様が真後ろに佇んでいた。
『とっ…時透…様っ』
「凄いなぁ…とても強い、甘い香り…君から?」
なんで?こんなタイミングで時透様が訪ねてくるのか。
そもそも、位が上のお方が底辺を生きる隠に何の用だというのか。
用があるなら後でと言いたいところだが、流石にそんな事を言えるわけもなく
そんな私を気にせず時透様はすんすんと鼻を鳴らしては、私にぴたりとくっついた。
「ヒートのタイミングで君に会えるなんて嬉しいな」
『あ、あのっ…どうしてこちらにっ』
熱くて苦しくて、色んな感情がごちゃ混ぜになるなかで何とか言葉にするも、うまく喋れない。そんな自分が酷く滑稽でもどかしい。
それもそのはず、ヒート中そして、近くにいるのはαの方。
αのフェロモンに誘発され、さらに強い発情を促されてるのだから。