第23章 闇夜に浮かぶは真っ赤な花 時透無一郎
漆黒の闇が辺りを包み込み、静寂が訪れる。
全身黒で覆われたこの姿では、闇に溶け込んで、自分が狙われてるなんて気づくものは誰一人いない。
丑三つ時、寝静まった街をひとつの影が忍び寄る。
お腹を空かせ、冷たい夜空を見上げながら歩く少女は美味しそうな匂いを辿ってこの街にやってきたのだ。
『(……ここら辺でいい匂いがしたんだけどな…)』
くんくんと鼻を動かせば仄かに香る甘い香。
薄れつつある匂いに歩を進めば、
獲物を視界に捉える。
気配を消し音もなく忍び寄る。
向こうは気づいてないみたいだ。
『(今回は当たりかな??)』
ゆっくりと距離を縮める。
じりじりと獲物へと詰め寄る。
緊張からか冷汗が頬を伝う。
後少しで触れると思ったその時、
獲物が急に振り向いて、数㎝距離を取ってしまい、思わず舌打ちを鳴らした。
『後少しだったのに…』
「………鬼?…でもなんか変…誰?」
長い綺麗な髪を揺らし、バッチリと目が合う。
綺麗な浅葱色をした中性的な顔立ちの人だった。
『うわー!綺麗な子…絶対当たりだよね!!』
「うるさい…人の話聞いてないでしょ…」
『ん??あぁ、ごめんごめん…私は…鬼ではないかな??』
眉を顰めて睨むその人に、軽い謝罪を済ませるとと名乗ったその少女は自身を覆う真っ黒なマントを翻してペコリと頭を下げた。