第22章 思えば思わるる 時透無一郎
誰かが私を呼んでいるような気がする…。誰だっけ…。
ふわふわと浮く体をまるで胎児のように丸くさせて漂う。
ここがどこだかわからない。
心地よい空間で、目を開けるのも躊躇してしまう。
どうしてここにいるのかも、私が誰なのかも全てが曖昧でどうでもいいとさえ思ってしまう。
それでも呼ぶ声はとてつもなく切ない。
泣かないで…。
君は誰よりも強い子でしょ…。
___本当に?___
どこからともなく聞こえるのは、聞いたことがあるようでないそんな不確かなモノ。
だって…あの子は柱で、誰も寄せ付けない、寄り付かない強い人
__おっとりさんで泣き虫で優しい人だよ___
もう少しこのままでいたい
…ほっといて欲しい…
__このままじゃ貴女は駄目になる…あの人もそれは望んでいない_
もう1つの声は、私の思いを全て否定し目を覚ませと何度も五月蝿く呼び掛ける。
煩わしくて、声の主を見ようと目を覚ませば私の周りには誰もいなかった。
目の前にはまるでスクリーンのような大きな幕があって、霞柱様を映していた。
『霞柱様っ…』
何気なく呟いた声に画面に映し出された彼は驚愕した表情をさせ、
私の名前を何度も呼ぶ。
『……』
何でそんな表情をさせるの?貴方はあの時から無表情で居たじゃない…。