第22章 思えば思わるる 時透無一郎
「おかしいですね…そろそろ目覚めても良い頃だと思うのですが…」
「………」
「あれから、3ヶ月も昏睡状態が続いてます…強打した脳には診た限りでは何の支障もないですし、…全身を診ても傷や怪我も完治してるのに」
「そうですか」
蝶屋敷にある白いベッドの上で横たわる。
点滴をさした腕は一回り細くなっただろうか。
との任務から今日で
丁度3ヶ月が経った。
胡蝶さんの言う通り、の傷は完治してる。なのに目が覚めないのはきっと、僕が放った辛辣な言葉…そんな気がした。
胡蝶さんは言いづらそうに口を開閉しては、意を決したように僕にが今植物人間であると告げる。
例外はあるけれど、大抵は持って一年だそうだ。
静かに院内を出る胡蝶さんを背中で見送る。
だらんと力なく置かれた細い手を握る。
「…酷いこと言ってごめん…早く目を覚まして…」
が眠ってる間、色んな事があった。
記憶を無くした僕は、忘れた頃にはたと思い出しては蝶屋敷に移ったの見舞いに訪れていた。
の顔を見ても、意識がない顔をずっと見つめていても
心の中に感じるのは“無”。
それでも、週に1、2回は何の意味もなく訪れていた。
そして、炭治郎達と出会い、上弦の鬼を倒せば、まるで霞のかかった記憶は晴れ
僕がしてきた重大な事、大事な人を思い出したのだった。
それからは毎日のように見舞いに訪れるも、は痩せるだけで何も変わらず、伏せられた双眸は
開かれることはなかった。
「ねぇ…僕の事見て?…前のようにもう一度好きって言って…僕もの気持ちに応えるから」
ポツリと呟く声は誰にも受け取られる事がないまま虚しく空気に掻き消されていく。
握った手は温かいはずなのに、どこか冷めていて握っていないと居なくなってしまうようで…
俺からまた大事な人が離れていくような気がして怖かった。