第9章 歪んだ愛情
「ん……っ」
どんよりとした頭痛と肌寒さに身体を震わせ、私は目を覚ました。
「こ、こは……」
まだぼやけている視界の先に映るのは、薄暗く…窓一つないコンクリートで覆われた壁だった。
ガシャ…ッ
見慣れない部屋に驚き、思わず立ち上がろうとすると、すぐに椅子に引き戻された。
「え…っ?」
大きな混乱に包まれる。
木の椅子に座らせられている私は、手、足、そして腰が椅子に括り付けられていた。
そして何より…服を何一つ纏っていない。
どおりで寒いわけだ。
「な、にこれ…っ。誰か…っ!誰か助けて!!」
慌てて大声で叫ぶが、その声は部屋の中で虚しく反響するだけだった。
「どう…しよう……」
なんで…どうしてこうなった?
恐怖や混乱でバクバクと鳴る心臓を少しでも落ち着かせようと深呼吸する。
そして、ここに至るまでのことを思い出した。
(確か…、家に帰る途中に…誰かに抱きつかれて…、それで口を覆われたんだ。そしたら…)
コツ…コツ……
足音に、思考が遮られる。
ドアの向こうから、誰かがこちらに向かってくる。
「っ……!!」
怖い。起きていたら、何をされるか分からない。
とりあえず、まだ眠っているふりをしよう。
震えながら固く瞳を閉じていると、扉がギィ…と重い音を立てて開く音がした。
「莉亜。」
この場には似合わない、異常な程優しい声が私の名を呼ぶ。
私は…その声を知っている。
「起きてよ。もう起きてるんでしょ?ずっと見てたから、知ってるよ。」
指が私の顎に添えられ、唇をそっとなぞられる。
「ほら…起きろよ。じゃないと俺、何するか分かんない。」
急に冷たく、低い声に変わった。本能的に危険を感じ、瞳を開く。
「虹星……先輩……っ。」
「やっと目を覚ましたんだね…俺の愛しい姫…?」
虹星先輩がにこりと笑う。
それは、以前私が好きだった頃の笑顔で……、なのに今は、狂気を滲ませていた。