第6章 最期の夜を君と飾る
「ここに、いて……」
「で、でも……っ」
呼吸器や点滴を外し、裕貴がベッドからゆっくりと起き上がる。
「ってて……」
「何してるの…っ?無理しちゃダメだよ……!」
慌てて駆け寄ると、裕貴は困った様に眉を下げてはにかんだ。
「大丈夫だよ。わかってる。俺……今日で死ぬから…」
「……っ」
『今日で死ぬ』。その言葉を聞いて、心がずきりと痛む。
「莉亜…、もっとこっちへ来て。」
伸ばされた手を取り、裕貴の隣へ寄る。
「裕貴……、んっ?」
突然身体が引き寄せられ、唇に柔らかいものが触れる。
気が動転して何も出来ずにいると、ぬるりと口の中に何かが入り込んできた。
「んんっ……ぁ…」
ちゅっとリップ音を響かせて互いの唇が離れる。
短い時間が、何十秒も長く感じた。頭の中が甘く蕩け、口の中にはまだあの感触が鮮明に残っている。
「ごめんな…辛い思いさせて…。最後の最後まで、莉亜を泣かせてしまった……」
ぐいっと目尻が裕貴の親指で拭われる。
いつの間にか、大量の涙が溢れていたようだ。
「裕貴……いかないで…っ。裕貴が居なくなったら…、私…っ、私……っ!」
「大丈夫だよ。俺が死んでも、ずっと見守ってるから……な?」
泣きわめく私を宥めるように、優しく頭を撫でる。
「莉亜……最後に俺の願いを聞いて欲しい。」
「…何っ?何でも聞くよ…っ?」
涙で濡れる目で、儚げに微笑する裕貴を見上げる。
「最後に……俺とお前の思い出を作りたいんだ…」