第9章 小湊亮介の場合
「真琴先輩…そんな辛い顔するくらいなら、俺を頼ってください。1人でそんな顔されたら…俺が辛いです。」
「佐伯くん…?」
「俺だけを見て…今は忘れるためだけでもいいんです。そして、いつかはーー俺だけを思ってくれませんか?」
佐伯が真琴の手を引きゆっくり立たせて、抱き締めようと近付くーー
「真琴!!」
俺の声に真琴が振り向く。
「こ…小湊先輩…」
いつもなら嬉しそうに笑う真琴だけど、今は驚きと少し困ったような顔ーー
「真琴…おいで?」
「でもっ…」
はぁ~っと、俺は溜め息をつく。
「真琴は好きでもない奴に抱き締められたいの?」
「違います!」
「自分は気持ちも伝えないで諦めるんだ?」
「……っ」
「相手の気持ち…確認しなくていいの?」
真琴はゆっくりと俺を見る。
「こっち…おいで?」
俺は右手を差し出す。
「…佐伯くん…ごめんね…」
そう言うと真琴は俺の方にゆっくり歩いてくる。
もう少しで手が届くところで佐伯の声が聞こえてきた。
「真琴先輩!なんでですか?!先輩を悲しませていたのはその人のせいですよね?」
その言葉に一瞬、真琴の手が躊躇する。
でも、俺はその手を掴んで引き寄せる。
「佐伯くん…だっけ?大丈夫だよ。その責任は今から俺が取るから。」
そう言って真琴を抱き締めーー唇にキスをした。
「せっ…先輩?!」
真琴は顔を真っ赤にして驚いている。
「まだわからない?」
そう言うと、今度は長いキスをする。
真琴は俺の胸を押して抵抗する。
唖然とする佐伯。
息をする隙もないほど角度を変えて何度も唇を奪うーー
「…んっ…」
真琴の力がフワッと抜けその場に座り込む。
クス…やり過ぎたかな?
気付くと佐伯もいなくなっていた。
真琴を見るとポロポロと泣いている。
「真琴…?」
「ひっく…なんで…っく…こんなこと…するんですか?」
えっ?
「もう…小湊先輩がわからないです…」
ここまでしても真琴はわからないのか。。。
俺は真琴の前にしゃがんで頭に手を置く。