第9章 小湊亮介の場合
真琴はいつも通り話し掛けてくる。
そうやって…誰にでもいい顔するんだ。
真琴の後ろにいる佐伯は寂しそうに俺たちの話を聞いている。
クス…真琴にお仕置き。
「じゃ…。」
そう言うと俺は真琴と目を合わせず1人先に体育館に歩き出した。
「おい、亮介?待てよ!」
「じゃ、真琴。またな。」
哲が真琴の頭を撫でる。
いつもは哲に頭を撫でられると顔を真っ赤にするのに、今日は寂しそうに後ろ姿を見送っていた。
ほんの意地悪のつもり…のはずだったーーー
「真琴先輩…行きましょ?」
「あぁ、うん…」
ほんの意地悪のつもりで、真琴と話さない日が続いていた。
その間も真琴の周りには相変わらず1年の佐伯がいた。
予想外…と言うより、俺は忘れてたんだ。
真琴は鈍感で、素直ないい子だってことーーー
そう…ほんの意地悪のつもりが、真琴は俺に嫌われたと思ってるんだ。
俺が近くを通るときの真琴は辛そうな顔をする。
嘘だよ…そうすぐ言ってやれたらいいのにーーー
放課後そんなこと考えながら図書室の窓から外を眺める。
1人ベンチに座っている女の子がいるーーー真琴だ。
部活に行く時間、しかもキャプテンがまだ制服で。
それをただ見つめていると、真琴に近付いてくるジャージ姿の男…佐伯だろう。
真琴の前にしゃがんで何やら話している。
佐伯は真琴の右手を握った。
…ったく。
どうして、そんなに真琴は隙だらけなんだ。
好きでもない奴に触らせるの?
それとも本気でそいつのこと好きになったの?
そんなことを思いながら、俺はいつの間にか図書室を出て真琴の元に向かったーーー