第8章 伊佐敷純の場合
季節はすっかり秋ーー
部活も引退して、俺はただの受験生だ。
退屈な授業を聞きながら窓の外、グランドに目をやる。
女子が体育でキックベースの試合をしている。
その中に一際、元気のいい奴がいる。
そいつは転がってきたボールを追いかけて校舎の方に走ってきた。
ボールに追い付くと足で止め、そのまま手を使わずにボールを上に蹴りあげキャッチする。
そこら辺の男より上手いぞ(笑)
あっ…
そいつーー真琴と目が合った。
真琴はニッコリ笑うと手を振ってきた。
バーカ。こっちは授業中だっつーの!
手なんか振れるか!
クラスの奴らに呼ばれて急いで戻る真琴。
打席が回ってきたらしい。
コロコロと転がってくるボールを思いっきり蹴りあげた。
ありゃ、野球じゃ場外ホームランだな。
蹴った時すっげぇ音してそうだし。
思わず口許が緩んだ。
授業が終わり伸びをしていると後ろから、亮介が声を掛けてきた。
「何、授業中に外見て笑ってんの?」
「あ?別に笑ってねーし!」
「そお?今の時間の体育は…」
そう言うと亮介はグランドに目をやりクスッと笑う。
「真琴のクラスか。。。」
「なっ、だからなんだよ!」
「いや、別に?」
「あれだ!たまたま見たらアイツがボール蹴るとこでよーすげぇ音してそうな勢いでマジ蹴りしてんの見たら可笑しくてよ。」
「ふーん。」
俺は何、必死に言い訳みたいなこと言ってんだ。
「あーっ!小湊先輩!」
窓の外から真琴の声がして、亮介が手を挙げる。
「伊佐敷先輩も!」
俺も外に目をやると真琴が手を振っていた。
「お前、授業中に手振ってくんじゃねーよ!困るんだろーが!」
「わかってますよー!でも、先輩が退屈そうに外見てたので、つい。」
「ごらぁ!誰が退屈そうだ!真面目に授業受けてるだろうが!」
「そうなんですか?」
真琴はクスクスと笑う。
「お前なー!」
俺が立ち上がると、後ろからポンと肩に手を置かれた。
「真琴、早くしないと次の授業に間に合わなくなるぞ。」
「はっ…はい!結城先輩…///」
さっきまでクスクス笑ってた真琴が少し緊張気味に顔を赤くする。