第1章 ◆若返り(三日月宗近)
───うららかな、とある春の日。
庭の桜がはらはらと舞い落ちる本丸は、今日は出陣の予定もなく、珍しく穏やかな時間が流れていた。
この本丸の主は、毎日せかせかと仕事で忙しい。
それは生真面目さと、一生懸命さと、それでいて詰めの甘い不器用さ。そんな彼女の性格が災いしていたからだ。
…それでも、大きな任務を終えた今、やっとひと息つけたのだろう。
縁側で三日月宗近と語らっていたはずの彼女は、今は彼の肩にもたれて目蓋を閉じていた。
小さな息を立てて、ぐっすり眠っている。
「…乙女の胸には、何が詰まっているのだろうな…」
今のは完全に、三日月の独り言だ。
彼はもたれている主の胸の柔らかさを腕に感じながら、思ったことを呟いた。
胸が触れているのは彼のせいではない。たまたま当たっているのである。
三日月はこの和やかな時間を、茶の苦みと、菓子の甘さと、そして主の体の柔らかさでしみじみと味わっていた。