第5章 一の裏は六
「随分と回復したようですね、これなら帰っても大丈夫ですよ」
帰る?と理緒は首を傾げる。
授業には出れないから、もう帰った方がいいということだろうか。
「もう放課後ですよ」
へ……?
理緒の声が出ていたのならば、間違いなく、とんでもないほど間抜けな声を出していただろう。
「よく寝ていたな」
と炭治郎が朗らかに笑う。
1時間目と3時間目以外、授業をまともに受けていない。
転校初日なのに。
悪目立ちしてしまっただろうな。
転校生という注目をやり過ごして、空気となりたかっただけなのに。
落ち込む理緒に気づいた炭治郎は、
「明日から、頑張ろう」
と声をかける。できるだけ優しい笑みを浮かべて。
そんな炭治郎を見て、理緒は頷く。
「もう遅いし、一緒に帰ろう」
……一緒に?と理緒は小首を傾げた。
炭治郎も電車通学で、家の方向が同じなのだろうか。
けれども、そんな話をした覚えは理緒にはない。
「俺が抱えて帰るから」
いや待て。なんで、そうなるんだ。
怪訝な顔をした理緒の表情から、炭治郎は付け加えた。
「俺には朝が弱い妹がいてな、毎朝抱えているから心配ないぞ」
そんな心配はしていない。
口に出せない理緒は、眉間に皺を寄せてみる。
「あ、もしかして、荷物のことか?それならそこにある」
炭治郎の指差したベッドの脇には、理緒の持ってきた荷物が置いてあった。
教室に戻らずとも今すぐ帰れる。
なるほど、炭治郎は気が利く。
って、そういうことじゃない。