第3章 合縁奇縁
理緒は炭治郎の腕の中で、守られていたことを知る。被さっている身を起こして、炭治郎の顔を覗き込む。
「いたたた……」
頭を撫でながら炭治郎も身体を起こす。
大丈夫かと声をかけたいのに、理緒は尋ねることができない。
理緒が人に声をかけたいと願うことなど、久しぶりであった。
「大丈夫か?」
それは、こちらの台詞だ。
そんな気持ちを知ってか知らずか、炭治郎は告げる。
「俺は大丈夫だ。頭を打ったが」
それを大丈夫とは言わない。大事に至る可能性だってあるのだから。
「俺の頭は固いからな」
理緒が心配していることを察したように、炭治郎はそう言って笑う。
そんな炭治郎に言いたいことがたくさんある。けれども、何も言えない理緒は、出ない声を恨んだ。
炭治郎の背中に回り込んだ彼女は、背中に指を走らせ伝える。
『ごめん』
「ああ、別に構わないぞ。それより何より、君が無事でよかった」
炭治郎の屈託のない笑顔に、
理緒は心がふわりと軽くなった。
それを安堵したからだと勘違いした理緒が、本当の気持ちを知るのは──まだ先の話。