第17章 隣の男
*緑谷side
体育祭の数日後。
通学路で見知らぬ人に声をかけられることにも少しずつ慣れ、
イベントモードだった校内の様子もすっかり落ち着いてきた。
いつもより少し早く学校についた僕は、
校門付近で飯田君・麗日さん・轟くんに遭遇した。
轟くん、普段はリョウちゃんと一緒に登校している印象だったけれど、
今日はどうやら1人みたい。
「もうすぐ職場体験だねぇ、デクくんは行き先決まった?」
「う、うん!なんか、昔オールマイトの担任を務めていた方のところに行くことになったよ」
「オールマイトの...?どなたかは存じあげないが、何だか凄そうだな!」
「あのオールマイトですら頭が上がらないみたいだし、ちょっと不安だよ...
轟くんは、行き先決まった?
体育祭で大活躍してたから、すごい数のオファーが来てたよね」
「あんなの、ほぼ親の名前ありきだろ。俺は....」
突然、轟くんの動きが止まる。
何やら遠くを見つめる彼の表情は、無表情だけど、なんとなく...不機嫌そうだ。
僕の考えすぎかな?
轟くんの視線の先には───
「あ、リョウちゃんだ!」
華奢で小柄だけど、存在感のある立ち姿。
遠くから見てもすぐに彼女だとわかった。
ウェーブがかった髪の毛が、風に吹かれて柔らかく揺れる。
リョウちゃんは、男性と一緒に歩いていた。
かなり親しい間柄なのか、2人の距離は近い。
──異常に近い。
男性は凄まじい勢いでリョウちゃんの肩や腰に手を回し、挙げ句の果てにキスを試みすらしている。
一方、リョウちゃんは慣れた手付きで器用に交わし続けていた。
「あ、朝から破廉恥なっ...!」
「飯田くん、感想乙女か。
...なんか、あんな余裕のないリョウちゃん珍しいね。
顔真っ赤になっとる。」
「......」
露骨に不機嫌そうな轟くんのことなどつゆ知らず、
麗日さんは楽しそうに目を輝かせる。
「火に油を注ぐ」ということわざが僕の脳裏に浮かんだ。
「...ねぇ、デクくん、リョウちゃんの隣にいる人って...」
麗日さんが不思議そうな表情を浮かべるのも無理はない。
リョウの隣の人物が、あまりにも予想外だったのだ。
「うん...
B組の、物間くんだ」