第2章 ◇1話◇鏡に映る知らない彼女
朝一で急な来客の対応をお願いされた私が、漸くフロアに戻れたのはお昼前だった。
このままお昼休憩に入ってもいいと上司から許しを貰って、また新しい仕事をお願いされてしまう前にさっさと食堂へ向かう。
時間的にお昼休憩には少し早かったからか、食堂はまだ人がまばらだった。
特にお腹もすいていないし、適当に一番安いランチを頼んで空いてる席に座った私は、美味しくもマズくもない社食を食べながら、片手でスマホを扱う。
今夜は好きな俳優の出るドラマの最終回だ。
とても人気のあるドラマで、エンタメニュースのトップでも今夜の最終回前の特集が組まれていた。
違う世界にトリップしてしまったヒロインが、そこで出逢った男と恋に落ちるなんていうありえない設定のストーリーなのだけれど、文字通り住む世界の違う2人が障害を乗り越えて結ばれていく姿が意外と胸をキュンとさせて面白いのだ。
それになにより、ヒロインが恋に落ちる男というのが、一見すると冷たいのだけれど、実はとても仲間想いの熱い男だったりするものだからキュンキュンが止まらないー。
その男を大好きな俳優が演じているというのも、私がドハマりしている理由の一つだ。
「ニヤニヤしてると思ったら、またあのドラマ?」
私の隣の席に座ってスマホを覗き込んだのは、同期のリコだった。
呆れた様にため息を吐かれたので、私はこのドラマがどれだけ素晴らしいのかを語って教えてやる。
だが、もう何度も聞いたと冷たくあしらわれてしまった。
「そりゃ、リコは結婚も決まって、イアンとラブラブで幸せだからいいけどさ。
恋人もいない、仕事もつまんない、親友は結婚式の準備で遊んでくれない。
そんな女は、好きな俳優のドラマでも見て癒されるしかないのよ。」
「…お気の毒に。」
頬を膨らませれば、リコに本当に気の毒そうな目を向けられた。
惨めだ。
だから私はまたスマホの画面に表示される大好きな俳優の笑顔に癒されることにした。
「そういえば、この中途半端な時期に企画調査部に新人が入ったらしいよ。」
「企画調査部に?」
スマホの画面上で光るイケメンの笑顔に釘付けになっていた私の視線が、思わずリコへと向いてしまう。