so ist es immer【Levi dream】
第1章 in the light of the earth
冷めきった小麦のパンをひとつ齧る。……美味しくない、がこれを食べなければ餓死してしまうのは目に見えていて。貴重な食料なのだと踏ん切りをつけて少し固めのパンを齧った。
いつまでこんな意味の無い、無意味な生活をしなくてはならないのだろうか、と考えればそれは果てしないことのように感じた為考える事を放棄した。人間、暇な時間を持て余す方法を知らないらしい。暇さえあれば如何して此処にいるんだろうと考えてしまう脳味噌があたしは此処に居たくないのだと訴える。
その訴えを聞かないフリして今日も朝か夜かわからない日常を過した。せめて、普段と違う何かが起きてくれればそれはそれで退屈しのぎにはなるのかもしれないのに。話し相手になってくれるだけでいい、地上の事を教えてくれるだけでいい。そんな些細な夢も、願いも、この何気ない日常に壊されてしまう。崩されてしまう。
真っ白な自分の手を見下ろして息を吐き出せばそれは白く濁る。此処の気温が低い証拠だろう。その証拠に今あたしの体は大袈裟なくらい震えていた。そう、それはとても大袈裟なくらいに。
「……居心地はどうじゃ、と言っても良いとは言えぬな」
「……っ!」
その聞き覚えのある声に遠い記憶が縋り付く。この異様な程に広くて真っ白な空間に響き渡るのは年老いた老人の声、それなのにどこか凛々しく気を抜いてしまえばその父親にも似た感覚の声に涙が溢れ出てきてしまう。
「地上は無情にも時間が過ぎ去るが、此処は相変わらず時間を感じさせぬな。まるで神秘的なところじゃが、お主にとって此処は地獄、か?」
「…………ピク、シスさん」
「おお、儂の名を覚えていてくれたか」
「如何して、」
オレンジ位のジャケットを羽織った老人。それなのに全く老いを感じさせないのはその柔らかな雰囲気の中に隠れている鋭さがあるからなのか。父と良く家に遊びに来てくれた目の前の男、ピクシスを視界に入れた途端、涙が頬を伝う。
「べっぴんさんになったのう、お主」
「っ、」
「聞きたい事も沢山あって今は頭の整理がつかん、か。なにしろもう何十年もこの空間に閉じ込められておったとは。アシュリーも酷な事を」
「……おとう、さん…」
黒髭を触りながらあたしを悲しそうに、否、複雑そうに見詰めるピクシスははあ、と白い息を吐き出した。