第2章 ***
「…降りろ」
「……、」
連れて来られたのは彼のマンションだった。
ここには何度も訪れた事がある。
週末は必ずと言っていい程お泊まりをしていた、懐かしい場所…
(まだ…ここに住んでたんだ…)
ちくりと胸が痛む。
そんな私に構う事なく腕を掴んできた彼は、そのままエレベーターに乗り込んだ…
「きゃっ…」
部屋に入るや否や、彼は私を寝室へ連れ込みベッドの上に転がす。
そして私の体に馬乗りになってきた。
こちらを見下ろすその表情はひどく冷たい。
「…何故俺の前から姿を消した」
「……、」
「俺が納得出来る理由を聞かせろ。それまでお前を帰す気はない」
「っ…」
ぐいっと顎を掴まれる。
眼鏡の奥の瞳には静かな怒りが宿っていた。
「それは…ちゃんとお伝えしたはずです…。会って直接お話し出来なかったのは申し訳なく思ってますが……」
「ほぅ…。"他に好きな男が出来た"…あれが理由だと言い張るのか?」
「言い張るも何も…事実ですから…」
「………」
真意を探るような目で相変わらず私を見下ろしてくる。
本当は目を逸らしたかったが、そうすれば私の言う事が嘘だと思われてしまうだろう。
ふと彼が口元に笑みを浮かべた。
そしてしゅるりと音を立て、片手で器用にネクタイを外す。
「…その強気な態度がいつまで続くか見物だな」
「え…」
私の両腕を取った彼が、今外したネクタイで手首を縛ってくる。
抵抗した時にはすでに遅く、私の両手は自由を奪われていた。
「な、にを…」
「言ったはずだ…俺が納得する理由を話すまで帰す気はないと」
「っ…」
鼻先が触れ合う程の距離で囁かれる。
何か言い返そうとするより早く、強引に唇を奪われた。
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