第2章 ***
「やっと見つけたぞ……澪」
「…大和…、さん……」
目の前にいる人物を見て我が目を疑う。
定時に仕事を終え、職場を出た所に"彼"は立っていた。
こんな所にいるはずもない"彼"が…
「…来い」
「え……きゃっ…」
グイッと腕を引かれそのまま引きずられるように車道の方へ連れて行かれる。
そこには見覚えのある車が停まっていた。
何度も乗った事のある彼の愛車だ。
「乗れ」
「ちょっ…」
有無を言わさず助手席へ放り込まれ、車はそのまま急発進した…
(まだ怒ってる…よね)
ハンドルを握る彼は一言も話さない。
私の前に現れた理由も、これから何処へ行くのかも…
──海堂 大和。
それが彼の名前だ。
2年前まで私たちは恋人同士だった。
私は心の底から彼を愛していたし、彼も私を大切にしてくれていた。
それでも別れた事には勿論理由がある。
元々同じ会社で働いていた私たち。
上司だった彼は、私を含め部下のみんなから尊敬される程仕事の出来る人だった。
ある日、そんな彼に社長令嬢との縁談が持ち上がったのだ。
けれど彼はその縁談を"断る"と言った。
当然それは私という存在があったから…
私と別れて社長令嬢と結婚すれば、彼の将来は約束されているというのに。
結果、私は彼の前から姿を消した。
会社も辞め、当時使っていた携帯も解約し、引っ越しもした。
彼には「他に好きな人が出来たから別れてほしい」とメールを残して…
"彼の為に自分から身を引いた"と言えば、健気に思われるかもしれない。
けれど本当はそんなんじゃない。
私は怖かったのだ…
有望な彼の未来を奪ってしまう事が…
何の地位も名誉も持っていない平凡な私が、彼を幸せに出来るのかと…
.