第6章 Ohno.
君の居ないこの場所を、
少しだけ寂しいと思ったのは俺だ。
「俺、トイレ。」
ニノがテクテクと楽屋を出て行く。
ニノはこういう空気が
少し苦手だ。
だからいつも先に抜け出すんだ。
携帯電話で電話してみるも、
やはり出ることはなかった。
「あんさぁ、居なくなるのはいいけど
分かり易いところに居ないでもらえるかな」
「…喜ばしいことでしょ、見つかって。」
はぁ
なんなんでしょう、この子。
可愛いとか綺麗とか思った数時間前の自分
かなり恨み、そして後悔する。
ひねくれた女です
「リーダー、テンパってたし、泣いてましたよ」
「…だから?
大野さんはもうお父さんじゃない
もうすぐ本当の親が…」
「あんたはそれでいいわけ?
アイドルがとやかく言えることじゃないけど
でもあんた、リーダーと暮らして
一緒に居たいって、そう思いましたよね?」
あんなに幸せそうなリーダー、
初めて見た。
楽しそうにあんたのこと話すの、
見てて羨ましいって正直思いましたよ。
失いたくないって、
リーダーはいま気づいてる。
気づいたんだ。
「帰って…「無理だよ!」
愛里ちゃんが叫ぶ。
涙いっぱいの目で私を見つめる。
「無理だよ。帰んないと、駄目なんだよ
お父さんは言ったんだよ
…お父さんやめようと思うって」
ポタポタと床にこぼれ落ちる涙。
伸ばしかけた手を、ゆっくり降ろした。
いまの私にはかける言葉が見当たらなかった
「……リーダーに、言ったんですか?
ここにずっと居たいんだって、言いました?」
フルフルと横に首を振る。
「……ほんっ…とはっ……
帰りたくないっ…」
伝えなきゃいけないことを、
二人はきちんと伝え切れていなくて。
なのに、このまま離れようとするから
めんどくさがりの私が手助けした。
今後ない精一杯の優しさを使ったと思うよ。