第6章 Ohno.
『この前ー、お父さんがねぇ…』
『パパが買って来てくれたのっ!!』
『私のお父さんチョー優しいの!』
私の友達には必ず親が居て。
優しい父親がいる。
そんなの私にだって居たのに。
居るのに。
なかなか言えないでいた。
『愛里ちゃんお父さん好き?』
3年前、
素足で道端を歩いていた。
行くあてもなかったからフラフラと。
雨も降ってきて、薄着だったから
余計に寒く感じて。
このまま死ぬのかなあ、って感じた。
「…だいじょおぶか。」
そこにお父さんが通りかかった。
マスクにサングラスをしていて、まるで
芸能人みたいだった。
どうせ拾ってなんかくれないから。
「……、へいき。」
ザアザアと降りかかる雨粒に、
自分の涙も含ませながら。
ゆっくり視線を下へ向ける。
「…帰るとこ、ねえの?」
「ない。だってわたし、すてられたもん」
「ママとかパパとかは?」
「しらない。」
そう言うと、お父さんはソっと
傘の中へ私を入れてくれた。
「俺ん家おいで、俺がパパになってやる」
にやっ、と笑うお父さんの表情が
なんだか嬉しくて、
「…いっ……いのっ?」
「野垂れ死にされても困っからね。」
歩いてすぐそこだから。
お父さんは私の手を握り、
優しく前へ引っ張って歩いてくれる。
このまま離れて行かないよね
わたし、もう二度と一人ぼっちなんかには
なったりしないよね?
「…おっ……とうさっ…」
ここはどこなの。
わたしはだれ。
あなたはだれ。
どうして助けてくれるの
きっとあなたは、若い人で
"これから"がたくさんある人なのに。
「お父さんじゃねえし。」
どうしてあなたの手は温かいのだろう