第2章 始まった関係
「んっ…」
ちゅ…くちゅっと響く水音。
うっすら目を開ければ、視界には見知った顔が広がっていた。
(…甲斐田…部長……?)
私…部長とキスしてる…?
「…酔いは醒めたか?」
「……、」
唇を離した部長がふっと笑みを浮かべる。
ここはどこだろう…どうして私と部長が…
そう問い掛けようとすれば、ふと背後から回ってきた腕にぎゅっと抱き締められた。
「先輩…部長とばっかりキスして狡いですよ?」
「っ…」
耳元で囁かれたその声も聞き慣れたものだ。
(…橋本…くん…?)
私の目の前には甲斐田部長…そして私のすぐ後ろには後輩の橋本くん。
3人とも浴衣を着ている。
そこで私はようやく数時間前の事を思い出した…
私たち従業員は昨日から2泊3日で、ここ伊豆の温泉へ社員旅行に来ていた。
2日目の今夜は盛大な宴会が開かれ、私も勧められるままいつもより沢山お酒を飲んでしまって。
少し酔いを醒まそうと席を外した後、偶然ロビーで甲斐田部長に会った…
私が憶えているのはそこまでだ。
ここが誰の部屋なのか、どうして橋本くんまでいるのか全く憶えていない。
「その顔は…なんでここにいるのか憶えてないって顔だな」
「……、」
そう溜め息をついたのは甲斐田部長。
私はこくりと小さく頷く。
「俺を誘惑しておきながら…それはないんじゃないか?」
「なっ…、誘惑…!?」
私が部長を…!?
告げられた言葉にサァーッと顔から血の気が引いた。
確かに部長は私にとって憧れの存在だ。
カッコ良くて仕事も出来て…年齢は40を越えているとの事だが、とてもそうは見えない。
当然女性社員からの人気も高く、社内にはファンクラブまで存在している。
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