第1章 もう、泣かないで
「もう・・・殺して」
小さく囁くその声を、俺は聞き逃さなかった。
「え、いや何言ってるの?俺が君を殺す?そんな事絶対しないし!何でもいいから早くこっちに!血、止めないと!痛いでしょそれ!」
「・・・何も、知らないの?」
「知らないって何を?そんな事より今は君のその怪我手当てが先だから!俺、何にもしないからさ、早く怪我してる所見せて」
少しの躊躇いの後に、俺に他意が無いのが通じたのか彼女は用心深く俺の近くへ寄って来た。
「な・・・なにこれ・・・もしかして、自分でやったの?」
仄暗い蝋燭の下で彼女がそっと着物の袖をめくると、左手首に無数の傷がついていた。
古い跡と思われるものから、まだ鮮血が滴るものまで。
幸い、牢の格子は人の頭くらいの幅だったから、用心深く牢の外へ彼女の腕だけを手繰り寄せる事が出来た。
「ねぇ、こんなの痛いでしょ。駄目だよ」
「もう・・・殺して・・・お願いだからもう終わらせて・・・」
彼女が何の事を言っているのかは判らない。
だけどこんな暗い所で一人、死を望みながら泣いている子を見て何とも思わない訳がない