第1章 もう、泣かないで
血に塗れた手は、俺の知る『温かくて柔らかな女の子の手』と全然違って、小さくて、頼りなくて、そして冷たかった。
幸い、血の量の割に怪我が深くなかったから、寝巻の一部を破って一時的な応急処置を施した。
「俺はさ、この蝶屋敷に来てから殆ど病室と稽古場くらいしか行き来していないから、何も知らないんだよ。・・・話してくれる?」
暫くの沈黙の後、彼女が途切れ途切れに語り始めたのは、酷く悲しい彼女の生い立ちだった。
彼女は・・・5年程前まではごく普通の家庭で、ごく普通に家族と幸せな日々を送っていた。
ある夜、鬼が現れるまでは。
闇の中から現れた鬼は、一緒に眠っていた家族を彼女の目の前で次々と食い殺していった。
彼女は次は自分だと覚悟をしたが、一向に鬼の牙は届かない。
訳が分からぬ内に夜が明け、気が付けば家族の死体の山の中に無傷の彼女だけが取り残されていた。
その後、親族に引き取られるも一人だけ無傷で生き残った彼女は良い顔をされなかった。
鬼ではないかと罵られ、謗られる日々。
そんな折に、鬼殺隊と名乗る数名が、彼女の引き取られた屋敷にやって来て、家主にこう持ち掛けたそうだ。
『この娘を引き取らせてくれたなら、永劫この家を鬼から守ってやる」
と。
当然家主は諸手を上げ喜び、彼女をモノか何かの様にいとも簡単に手放したそうだ。