第1章 もう、泣かないで
廊下は静まり返っていた。
少なくとも、この屋敷で俺と関わった事のある人の音は聞こえない。
別に夜中に歩き回っていても何か言われる事は無いだろうけど、この時は何故か誰にも見つかってはいけない様な気がした。
さっき聞こえた僅かな音の方向を頼りに、注意深く進む。
すると、あの音がまたかすかに聞こえた。
病室に居た時よりも鮮明に。
それは、明らかにすすり泣く声だった。
小さな子供か、女の子か・・・。
どちらにせよ、こんな夜中に泣き声なんて穏やかな事では無い。
その声を頼りに進むと、地下への扉に行きついた。
「地下室?なんでこんな所で・・・」
俺はもう一度周囲に人が居ないか耳を澄ませて、そっとその重い扉を開き、中へ入る事にした。