第3章 届かない願い
箱の内側四か所に鎖が打ち付けられていて、その先にはそれぞれ枷が繋がれていた。
「あれの存在を君は知ってるんだろう?こうでもしないとあの稀血に逃げられた時にどうなっちまうか・・・」
『あれ』だって?
小乃実ちゃんの事を『あれ』って呼ぶの?
小乃実ちゃんをこの箱に入れるだけじゃなく、拘束までするの?
衝撃でふらつきそうになる。
「ま・・・待ってよ、連れて行かないでよ!」
「そういう訳にもいかないだろ。俺達は命令に従うだけだし」
「鬼殺隊は、強いんだろ?柱だっているし、何も無力な女の子をこんな目に会わせる事無いじゃないか!」
「しつこいなぁ、こっちはこれが仕事なんだよ」
「・・・じゃあ俺が!俺が代わりに行って鬼を退治するから!だから頼むよ!」
「しつこいって言ってるんだよ。お前、今季入隊の新人だろ?俺達は隠とはいえお前よりも先輩だって事忘れんなよ」
必死で縋りついたけど、俺は無力だった。
みぞおちに一発拳を入れられ、うずくまる俺を尻目に箱を担いだ隠達が屋敷へ入って行く。
「う・・・小乃実ちゃん・・・」
地面に首を垂れたまま、俺は動けなかった。
痛みの所為だけじゃない。
自分の無力さ、小乃実ちゃんに課せられたものの悲痛さ、鬼殺隊という組織そのものの残酷さ。
一体、鬼はどっちなんだろう・・・
目の前の土や石が、俺の涙で点々と色を変えて行く。
「善逸さん」
不意に声を掛けられた。
アオイちゃんだ。こんなに近づくまで気付けもしなかった。
「善逸さん、立って下さい。しのぶ様が呼んでます。それに・・・」
少しの間があった。。
「それに・・・いつまでもここに居たら、きっと貴方もあの子も辛い目に遭うから」