第2章 絡まった糸は柔らかな手で解けばきっと
「小乃実ちゃ~ん」
例の階段を下りながらそっと彼女の名を呼ぶ。
返事は無いけど、格子の傍まで慌てて移動した様な音が微かに聞こえた。
良かった。嫌われてない。
階段を降りきった先には、三日前に来た時同様、弱々しい蝋燭の灯が揺らめいていた。
「小乃実ちゃん、こんばんは。俺の事・・・覚えてる?」
格子にちょこんと乗せていた手を咄嗟に隠し、伏し目がちに俺を見上げている小乃実ちゃん。
「ぜんいつ、さん、ですよね?」
自信無さげに応える小乃実ちゃん
やっぱり、可愛い。
「俺の名前、憶えててくれたんだね。嬉しいよ。前回また来るって言って、三日も待たせちゃってごめんね。お詫びにもならないかもしれないけど、これ・・・」
懐には、訓練中に庭の隅にひっそりと咲いていた花を摘んで忍ばせていた。
少し萎れてしまっているけど、小乃実ちゃんに花を見せたくて、それを手渡した。
「可愛い花・・・これを、私にくれるの?」
「勿論!すぐ枯れちゃうかもしれないけど、小乃実ちゃんに似合いそうな花だったから・・・」
「ぜんいつさん、・・・ありがとう」
宝物を扱うような手つきで、小乃実ちゃんはその花を丁寧になぞり、嬉しそうに眺めている。
外に出ればそんな花、いくらでも見られるのにと思うと余計に心が痛む。
「小乃実ちゃんは、もう腕の怪我は治った?」
そう言って左手を促すと、すんなりと包帯を巻かれたままの手首が着物の袖から現れた。
「あれ?包帯?誰か代えてくれたの?」
「えっと・・・私の事を管理してる女の子の中の一人が・・・」
アオイちゃんの事だろうか。
見れば、包帯は寸分の狂いも無く丁寧に巻かれていて、いかにも彼女らしい手当てだと思った。