第2章 絡まった糸は柔らかな手で解けばきっと
―善逸の様子が、ヘンだった―
「たんじろうさん、おはようございます!」
なほちゃん達三人組が朝ご飯を運んでくれて、温かいみそ汁に一息ついた所で、廊下から騒がしく走って来る音がした。
寝台が空な状態からして、おそらく善逸だろうな。何処へ行っていたのだろう。
間も無く金色の頭を振り乱しながら部屋に入って来た。
「おはよう、善・・・」
声を掛けた俺に脇目もふらず、自分の寝台にあぐらをかき、用意されている朝食を掻き込む。
珍しい。いつもはどんな時でもかならず挨拶を返してくれるのに。
それに、あんな風に飯を頬張る善逸は初めて見たかもしれない。
今の善逸の行儀の悪さは伊之助に勝るとも劣らない。
比較対象である伊之助も、善逸の突然人が変わったような不可解な行動に言葉を失っている。
碌に噛まずに最後の一口を例の薬湯で流し込み、音を立てて湯呑を置く。
あんなに嫌がっていた薬湯を!?
思わず無言で伊之助と目配せをしてしまった。
大きく深呼吸をした後、善逸は立ち上がり、ぽかんと箸を持ったままの俺の前で立ち止まった。
「炭治郎っ!!」
「なんだい善逸!?どこか調子でも悪いのか?」
だが、帰って来た言葉は俺の予想を超えた物だった。
「炭治郎!訓練行くぞ!いつまで食べてるんだ!」
「ぜ、善逸落ち着け。急にどうしたんだよ」
「いいから!伊之助も行くぞ!早く支度しろ!」
いきなり話題を振られて面食らった伊之助は、善逸の勢いに思わず「おぅ・・・」と返事をする。
善逸に一体何があったんだろう?
昨日までの善逸とはまるで別人だ。
驚いた半面、俺は嬉しかった。
理由はどうあれ、三人そろって訓練をすることが出来るから。
一人よりも善逸や伊之助が一緒の方が心強い。
「わかった。それじゃ急いで支度するから、少しだけ待っててくれ!」
そう言うと俺と伊之助は、味噌汁でご飯を一気に胃袋に流し込んだ。