第4章 大人の情事
「それで?俺に何かようかい?」
女が出て行くと、何事もなかったかの様に信玄様はゴロンと褥の上に片肘付いて横になる
「実は、この姫さんがなんか聞いてもらいたいことがあるらしいんです。聞いてもらえますか?」
幸が隠れていた私を自分の前に押し出す
「ほらっ!自分で言えよ」
「どうしたんだ?麗しの姫君?」
ニコリと笑う信玄様にさっきの光景が目に焼き付いて、まともに信玄様の顔が見れない
「あ、あの…」
「ん?」
「ど、どうして私をここに連れて来たんですか?」
「は?」
幸村の素っ頓狂な声が部屋に響く。
「おまっ!お前何言ってんだよ?!言うこと違うだろ!」
「何を勘違いされてるか分かりませんが、私は織田の姫でもなんでもありません。私を拐ったからといって、信長様の弱みにはならないと思います。私には貴方が思うほどの利用価値はありません。なので私を安土へ帰して下さい。」
上擦りそうになる声を必死に堪えると、信玄様を真っ直ぐ見つめ言い放つ
やっぱりこんな所に居られない
みんなのところへ帰りたい
私の姿に呆気に取られた幸村が、信玄様の方を黙って見つめる
「へぇ。そんなに信長のところへ帰りたいか?」
「はい。帰して下さい。」
「ん〜〜。帰して下さいと言われて、美しい姫君をやすやすと手放す気はないよ。そうだなぁ…」
信玄は体を起こすと、再び褥の上に胡座を掻いた。
顎に手をやって、難しい顔で何やら考える。
すると、何か思い浮かんだのか熱の孕んだ瞳を私に向ける。
「では二月(ふたつき)のうちに、俺が君を心底笑わせることができたら、その唇も君の全ても俺にくれるってのはどうだい?」