第29章 過去へ
「…あの、さっき私の望むことを叶えてくれるって仰ってましたよね。だったら、ひとつお願いしてもいいですか?」
「なんだ?」
「人のことばかりじゃなくて、信玄様自身も、幸せになってください」
「……」
私の言葉を聞いて、信玄様はかすかに目をみはった。
「信玄様は、人のために無理をしすぎるところがあるって、よく知ってます。でも、これからはあなたも、みんなと一緒に幸せになってください」
「とんでもねえ殺し文句だな」
信玄様は苦笑して、私の身体を引き寄せる。
「あ……」
指先で顎をすくわれ、端正な顔が迫った。