第24章 束の間の休息
「ほう、貴様も色事の話をするようになるとはな」
「認めないなら、それでいいですけど……」
「俺はな、家康–––500年後の世界から来たと言う、あの女が面白いと思っていた。俺の手のうちで、せいぜいそれを愉しんでやろうと思った」
淡々と事実を述べるように、信長は言葉を紡ぐ。
「だが、春日山城から帰って来た乃々は、俺の知らない顔をしていた。女を美しいと思ったのは、あの時が初めてだったな」
家康が複雑な顔をして、ため息をこぼした。
「……あんたが欲しいものを逃したところ、俺は初めて見ましたよ」
「存外、悪くない気分だ。どうしてか、清々しさすら感じる。この手に転がりこんできたと思ったら、さらわれる–––嵐のような女であった」
「そうですね…。」
(嵐のような女か…。確かに、散々人の心をかき乱してったな)
信長と家康は乃々の消えた方向を見て、ふっと笑みを漏らした。