第13章 戦の駒
激しい咳の発作を封じこめようとするように口元を覆う信玄を見て、幸村の顔が色を失う。
「御館様!」
「寄るな。……何てことはない」
チッ…
また…こんな時に限って
制止した信玄の手のひらについた血が、ぽとりと草むらに垂れた。
「どこがですか! 今、喀血を…」
信玄は幸村をまっすぐに見て、薄く笑う。
「動じるな、幸。……皆には言うな」
こんな俺を見たら士気が下がるだろう…
あの時のようにはさせない
「……はっ」
ぎり、と音がでそうなほど、幸村は唇を強く噛んだ。
「よせ、お前まで血を吐くつもりか。–––行け」
「どうか……ご無事で」
矢のように駆けていく幸村を見て、信玄は呟く。
「さあて、踏ん張るとするか。まだ地獄行きを決めるのは早すぎる。美女の祝福も、あったことだしな」
『生きて帰って…』
乃々の言葉を思い出し
不敵な笑みを浮かべ、信玄は前を見据えた。