第13章 戦の駒
戦場に戻った信玄は、兵を率いて織田軍と戦っていた。
「徳川の軍勢、およそ三千! このままでは背後を突かれます」
幸村が矢継ぎ早に信玄に報告する
「信長に家康、か。まるであの日の戦の再現だな。味な真似をしてくれる」
信玄が病に倒れ、死んだという話が流れるきっかけになった戦のことだ
幸村の報告に、信玄は冷たく笑う。
「勝つ必要のない戦をしに来たはずだが、このまま地獄まであいつらを引きずりこみたくなるな」
「……武田軍一同は、いつでも覚悟ができてます
やりますか?」
幸村の両眼が激しく燃えて、その闘志の凄まじさを物語る。
「おいおい。怖い顔だな、幸。だが、計画はまだ崩さない。お前たちを道連れにする気はねえよ。後方に控えさせてる兵で迎え討て。あくまで深追いはするな。消耗戦を挑む側が、消耗しちゃ意味がない。幸、お前に指揮を任せる」
幸ーーー
お前まで死に急ぐ必要はない
お前には俺の亡き後、意思を継いでもらわないといけないからな
「お任せを。家康なんざ、軽く蹴散らしてやります」
幸村が駆けだそうとした時–––
「っ……!」
馬上でぐらりと信玄の身体が揺れた。