第13章 戦の駒
一方、織田軍 家康本陣ーーーーーーー
信長が数騎を引き連れ、家康の張る本陣に駆けて来た
「家康。戦況を報告しろ」
「信長様。ご無事で良かったです」
「当然だ」
駆け寄る家康に信長が余裕の笑みで馬から降りる
「信玄はこちらの動きを読み、兵を温存してました。陣形を崩すのに何度か挑発しましたが崩れませんでした。さすが…と言ったところでしょう。」
「そうか。隙あらば、信玄や真田の首を取るつもりだったが…さすが甲斐の虎、一筋縄では行かぬか。」
唇を噛み締める家康に信長が笑いながら、少し考え込んだ
「しかし、乃々を使って一方的に有利に戦を進めようとした、信玄の裏はかけたかと。武田再起に揺れていた諸国も、この戦で武田を負かした信長様の力を再び思い出したはずです。たった千騎で信長様自ら出陣し、武田の軍を攻め立てたと…」
「あいつの情報戦に乗るのは尺だが、どうせやるなら派手な方がいい。
あっちの士気にも少なからず影響したはずだ。」
「……乃々は、乃々の姿は確認できませんでした。」
「……俺もだ。見かけたらすぐにでも奪い返そうと思っていたが。致し方ない。あの女はもう少し信玄に預けておこう」
節目がちに信長に報告する家康にため息をつくと、信長は床几に腰を下ろした。
あの時……あの戦乱の中で、確かに乃々の声が聞こえた気がしたんだーーー。
乃々…
家康は小さく拳を握りしめる
「家康、これ以上は得手が無い。ーーー引くぞ。」
「はっ。」
信長は床几から立ち上がるとその身を翻し、自身の軍へ
家康も自分の軍へ命令を下すため、兵の元へ戻った
こうして、短くも激しい両軍の戦は夜が明ける前に幕を閉じた