第13章 戦の駒
「悪いがこの子を安全なところまで連れて行ってくれ」
信玄様が一人の兵を呼ぶ
…えっ
「はっ。乃々様、此方へ」
馬から飛び降りた兵が、鞍を指し示す。
「……さ、早く」
「信玄様はっ…?」
「姫を乗せて戦では戦えないだろう。」
いつもの笑顔で私の頭をくしゃっと撫でた
信玄様は馬から降りて、私の手を取るとそのまま抱きあげ、兵が引く馬の鞍に乗せた。
……私なんかにはどうすることもできない。
ただ…戦の駒にされて流れに身を任せるしかないんだ。
大切な人たちが危険な目に合っていても…
「あとは頼んだ」
「お任せください。」
信玄様を見つめる
信玄様も私を見つめた
一瞬だったのだろうけど、私には長い時に思えた
兵が私の馬を引き歩きだす
絡まっていた視線が外れた…
かわりに視線に入ったのは
怒号をともなった黒い渦
あの中に幸村や信長様が……
そして、まさに今そこへ飛び込もうとしてる信玄様
さらに多くの軍勢が、黒い波のように押し寄せる
その黒い波の中に……
?!
金色の髪が揺れているように見えた