第13章 戦の駒
「乃々。ここはもう危ない。一緒に来るんだ。」
「信玄様っ…」
信玄様は私の腕を掴むと、抵抗する間もなく馬に乗せる
「ひとまず君を安全な所へ連れて行く。」
信玄様も私を後ろから抱きしめるようにして馬に飛び乗った
馬を走らせながら、独り言のように呟く
「たった千の兵で、総大将自ら夜襲を仕掛けるとは…ずいぶん捨身て身の奇策だな…」
信玄様の私を抱きしめる手が、心なしか力が込められた
「こっちの被害も最小限とはいかなくなったが、気安く夜襲を仕掛けたことは後悔してもらう」
信玄様の言葉に、再びあの戦での光景を思い出し身体が震えだす
「乃々、大丈夫だ。」
私の震えに気付いたのか、信玄様が声をかけた
私を支えていた手を離すと、懐を探って何かを取り出して私の手に握らせた
何か硬い物が入っている袋だった
「いいか乃々?これはお守りだ。気が狂(ふ)れそうになったら、これをしっかり握りしめろ。」
そう言われ、思わずその袋をギュッと握りしめる
何かに縋らないと、気を保っていられなさそうで…