第12章 恋の病
「乃々様。では、早速ですがこちらを信玄様にお返しに行かれては?」
「これ…」
鈴ちゃんに手渡されたのは、手を切った時に信玄様が私に使った手拭いだった。
信玄様にいらないと言われた手拭い。
処分するにしきれず、結局、洗って綺麗にしたものだ
「乃々様が一生懸命、綺麗にされたんですから、やはり信玄様にお返しするのがよろしいかと…」
鈴ちゃんに手渡されるとほのかにお香の香りがする
「乃々様にお使いしてるお香を焚いておきました」
鈴ちゃんがニヤリと笑う
鈴ちゃんの女子力の高さに、私は思わず驚嘆した
今も昔も恋する乙女は凄い!!!
でも…こんなに女子力高い鈴ちゃんでも、あの女心分からない馬鹿には通用しないんだろうな…
幸村のことが脳裏に浮かぶと、鈴ちゃんの苦労を思いやった
「さ!では乃々様!行ってらっしゃいませ!!」
ファイト!と言わんばかりに鈴ちゃんが胸の前で、両手を握った。
部屋を出ると、鈴ちゃんの言われたまま信玄様の部屋へ向かう。
どうしよう…
自分の気持ちに気づいたら、どんな顔して会ったらいいか分からなくなってきちゃった
大丈夫かな?
顔、赤くないかな?
緊張して吐きそう…
そうこう思ってるうちに、信玄様の部屋の前に辿り着いてしまった
すぅ〜〜はぁ〜〜〜
一度大きく深呼吸して、意を決して声をかけた
「信玄様、いますか?」
…………
カタッ……
人の気配は感じるけど返事はない
「信玄様…?」
開けようか迷っていると
「…ゴホッ……」
「信玄様…?!」
「ゴホ…ッ…!!ゴホッ!!」
咳き込む声に思わず襖を開けた