第1章 甲斐の虎
「家康、ちょっといいかな?」
家康の部屋の前で声を掛けると、すっと襖が開く。
「何?」
「あの、明日の準備って…どうしたらいいか聞こうと思って…」
行くからにはちゃんと準備して万全にしておかないと
「傷薬は作り置きがあるし、包帯なんかももう兵が籠に入れて準備してあるよ。」
「そっか。じゃあ特段、用意することはない?」
「ないけど、するとしたら心の準備じゃない?」
「心の?」
「あんた、戦の経験あんの?」
不思議そうに聞いた私に家康がため息をついた
あ…。そうか…戦って、人と人の殺し合いってことだよね…
「ないよね?だったら、覚悟した方がいいんじゃない?」
確かに私は平和な時代から来た人間
しかも500年後の日本に戦争なんてない
世界ではテロがあっても日本はとても平和な国だ
「そ、そうだよね…戦…私、大丈夫かな?」
急に不安に襲われて、手のひらに汗が滲む。
すると、家康にポンっと頭を撫でられた
「ま、あんたの身の保障はしてあげるよ。俺も政宗さんもいるし」
「家康…ありがとう…」
「そんな辛気臭い顔した奴と戦に行ったら、こっちの士気も下がるから!」
ぶっきらぼうに言うその言葉の裏には、家康の優しさが感じられて私は自然と笑みが溢れた