第10章 嫉心
「信玄様…?」
「………」
信玄様は聞こえてないのか、返事をしない
なんだろう?
この空気……息が詰まりそう…
「さ、座って。」
部屋に戻ると私を座らせる
信玄様の顔は、すでにいつもの朗らかな顔に戻っていた
怒っていないことに、ほっとする
手の傷もほとんど治っているのに、信玄様は毎日包帯を交換しにきてくれている
いつものように向かいあって座ると、くるくると包帯を外してゆく
「して、乃々。与次と随分楽しそうだったな。何を話してたんだ?」
手当てしてる信玄様の顔は俯いているため、その表情は見えない。
「え?与次さんとですか?与次さんは、佐助くんを探すのを手伝ってくれようとしただけですよ」
「そうなのか?俺には見せない、あんな可愛い顔して……別の男にあんな顔されると妬けてしまうな」
「えっ…」
またっ…
この人は適当なこと言って…
傷口を綺麗に拭き、薬を塗りはじめる
「ただっ…与次さんが可笑しくて、笑っただけです。そもそも、信玄様に笑ったら、私、賭けに負けてしまうでしょ?」
「そうだよなー。乃々があの笑顔を俺に向けたら、一瞬で俺はその唇を奪うからな」
顔をあげて、フッと笑っているがその瞳には熱が灯ってる
そしてまた視線を落とすと薬を塗り始めた