第10章 嫉心
「佐助殿ーーーー!!」
「佐助殿ーーーーーー!!」
ややしばらく呼び続け、反応がないと分かると
「……乃々様。どうやら佐助殿はこの天井裏にはいないようです」
真剣な顔で私に言った……
「……っふ、……あははっ!」
「乃々様っ…?!」
その真剣な顔を見て思わず吹き出す私に、なぜ笑われてるのか、わからないで困惑した顔をする与次さん。
「…っは、は…。」
はぁ〜
息を整え深呼吸する
「すみません。笑ってしまって…。」
私が笑顔で頭を下げると、与次の顔が赤らんだ
「い、いえ。私こそ申し訳ありません。出過ぎた真似をしてしまいました。」
ふと、与次さんの視線が私の手元にうつり、持っている本に気づく
「何か困った……」
そう言いかけた瞬間
「ーーー乃々。」
唸るような声で呼ばれ、私の右手首がぐいっと引かれた。
引かれた勢いで、信玄様の胸にぶつかる
「乃々。包帯を取り替える時間だ。」
「し、信玄様…っ?」
な、なんか…信玄様…怒ってる?
「与次。すまんな。姫はこれから傷の手当てをしなければならん。」
信玄様はそう言うと与次さんを見据える
その眼は、自分の所有物だと…主張してるように鋭い。
甲斐の虎の異名をもつ、信玄様の眼光に与次さんは身動き出来ずにいた。
「し、信玄様?」
「さ、部屋へ行こうか」
与次さんへ向けられた視線を私に落とし、いつもの様ににこやかに笑うと
そう言って、私の手首を掴んだまま歩き出した
私は振り返り、呆然と立ちすくむ与次さんへ
『すみません』と言うように小さくお辞儀をした