第9章 掴めない心
その沈黙を破るように信玄様が口を開いた
「そうだ。大事なことを忘れていた。包帯を交換しにきた」
いつもの笑顔に戻って、手を差し出されて私も我に返った。
あ…。
昨日の傷のこと忘れてた…
おずおずと信玄様に、包帯を巻かれた右手を差し出す
包帯を外し、濡らした小布で傷口を拭くと優しく傷薬塗りはじめた
傷口をその指先で優しくなぞられるだけで、痛みではない妙な感覚に襲われる
俯く信玄様の日に焼けた赤茶色の髪が、信玄様の動きに合わせて目の前でふわふわ揺れる
まるで撫でて…と私に言ってるように…
思わず手を伸ばし、その髪を撫でる…
ハッ!!!
と驚いた信玄様が顔を上げた
!!!!
「す、すみません…!!」
自分のしたことに、気づいて慌てて手を引っ込めた。
「こらこら。大人を揶揄うんじゃない。それは俺がすることだぞ」
信玄様が一瞬だけ動揺したように見えた
だけど、その表情はすぐに消えていて、笑う信玄様が私の髪を一房救った